Geoff McFetridge
ジェフ・マクフェトリッジ



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1996年ごろだったと記憶している。当時ロサンジェルスのビバリー通り沿いには、エッジの効いたショップが何軒かあり、”Naked” と “K-Bond”が特に人気が高かった。どちらもぼくが企画した Tシャツを、高価にもかかわらずわざわざ日本から輸入して展開してくれていた。どちらの店もファッションがメインだが、K-Bond はアート & カルチャーにも大きく力を入れて発信していて、すぐにオーナー夫婦と仲良くなった。余談だが、このオーナーの旦那は、何とジェイムス・ボンドという名前。(本名です。その後人気スニーカーショップ “アンディフィーテッド”を創業した) あるとき、奥さんのカレンが「 (ジェフ・マクフェトリッジ) って知ってる?」とぼくに尋ねた。「初めて聞く名前だ。」と答えると、”George’s” (当時 X-Largeのオーナーがもっていたギャラリー。現在はない) での個展が最高だった。ぜったいチェックした方がいい、と強く勧められた。ぼくが行ったときは、彼の個展はすでに終わっていて、がっかりした。

その後、当時アート&カルチャーが好きな人のあいだで世界的に知られていた シアトルの Houston (最高のギャラリー&ショップだった。現在はない)で彼の作品をようやく目にする機会に恵まれた。線のひとつひとつ、バランス、すべての構成要素が、これ以上いじれないパーフェクトなアートワークの数々に強く惹かれると同時に驚いたことを憶えている。2000年以降は、静謐で内面に訴えかける作品が多くなったが、当時はボールドでポップなイメージが多かったように思う。

ほどなくして、グレンデール (At Water Village とも呼ばれる。ぼくはこの名前が大好きだ) にある彼のスタジオで、直接会うことができた。彼は人とすぐに打ちとけるようなタイプではない。何とか話をつないで打ち合せをすすめている最中、壁にかかったポスター作品がずっと気になってしかたがなかった。赤ベースに白抜きで、クマのキャラクターがカウンターでグラスをかたむけながらタバコを吸っているイメージ。そしてすぐ下には “I’m Rockin’ On Your Dime” (すごく楽しんでる。でも払いはアナタよ) というメッセージ。話の最後に、意をけっして「このイメージでTシャツを作りたいんだけど」といってみると、快諾してくれた。(のちにこのTシャツはヒット作となった) かわいいイメージの中に、辛口のスパイスが効いた皮肉なメッセージがこめられていて、当時一緒にTシャツを作らせてもらった奈良美智さんとも共通する時代感と空気感が漂い強く惹かれたイメージだった。

何度か彼のスタジオにかよううちに、ブラック・ブック(アーティストがアイデア作りにスケッチするノート)を見せてくれた。ランダムで膨大なスケッチ群の中で、それぞれのイメージが進化してゆくさま、精度が高まっていくさま (進化せずにボツになるものもある) がよくわかり、とても興味深かった。このことによって、ふたつのことを教えてもらったように思う。ひとつは、作品の良さは描いた数に比例するということ。もうひとつは、当時すでにグラフィックデザインはコンピューター処理が主流だったが、すぐれたイメージと作品は、最初はすべて手書きから生みだされるということだった。同時に、すべての構成要素の完成度の高さ、完璧さを目にして、「この人はポール・ランドやソール・バスのように、アメリカを代表するグラフックアーティスト、アート・ディレクターになるに違いない。」と強く思った。

その後、2000年から、ぼくはロサンジェルスに移り住むことになる。ある朝、サンタモニカの自宅を出て仕事に向かった。フリーウェイにのると、ビルボード上のペプシ・コーラの広告が目にはいる。「あれ、これジェフじゃないの?」と瞬時に思う。ジェフに電話すると「うん、そうだよ。」という。ペプシの全米規模の広告キャンペーンだという。それだけ巨大な規模の広告キャンペーンにもかかわらず、一目みて作者がわかる、というグラフィック・アーティスト、アートディレクターは世界中で何人いるだろうか?おそらく両手の指の数ほどじゃないだろうか。そのころからアニメーションの仕事も多くなったように思う。そしてソフィア・コッポラ作品 “Virgin Suicide” のタイトル・シークエンス (冒頭と最後の字幕) を手がけ、最近では スパイク・ジョーンズ作品 “かいじゅんたちのいるところ” のタイトル・シークエンスやビジュアルイメージを手がけることになった。

ジェフは、スケボーが大好きで、パートナーのヨンキー・チャンとともに、スケートボードブランド、 (ソリタリー・アーツ)を運営している。彼自身スケボーの腕前もそうとうなものだが、一方でサーフィンも楽しむ。サーフィンのホームポイントは、パタゴニアの本社があるヴェンチュラ。最近知ってとてもおどろいたのだが自転車にものめり込んでいて、ローカルだがロサンジェルスの大会で優勝している。グリフィスパーク近くの自宅で、奥さんとふたりの娘、そして愛犬とともに暮らしている。いつかジェフと一緒にヴェンチュラでサーフィンできたらいいな、と思っている。そのときは、ジェフがレコメンドしてくれたアンダーソンのシングル・フィンのボードを買おう。

Geoff McFetridge (ジェフ・マクフェトリッジ)
カナダに生まれ、アルバータ美術学校卒業後、ロサンジェルスのカリフォルニア美術大学へ進学、その後もロサンジェルスを拠点に活動するアーティスト。ビューティフル・ルーザー展で重要なパートを占めるとともに、これまで ロサンジェルス、ベルリン、パリ、ロンドン、オランダ、日本など、世界各地で個展が開催された。偽りなくマルチで 多角的な才能をもったアーティストといえる。詩作からアニメ制作、グラフィックデザインから巨大な造形物、テキスタイルや壁紙のデザインからペインティングと、カテゴリー、素材、手法の垣根を超え、一見バラバラにも見えるさまざまな分野で、高い才能を発揮している。

グラフィック・デザインにおいては、学生時代にすでに頭角をあらわし、アート・ディレクター協会、ID マガジンで、賞を獲得した。1996年から1998年まで、ビースティー・ボーイズが刊行していた雑誌、グランド・ロイヤルのアート・ディレクターをつとめる。その後自身のスタジオ、チャンピョン・グラフィックスを設立し、世界中のさまざまなクライアントの仕事を手がける一方で、アーティストとしての活動も精力的に追求している。

おうおうにして、商業的な仕事とパーソナルなアート・プロジェクトは別ものになったりしがちだが、彼の活動は、2本の線がらせん状にからまるように同時進行している。ジェフの特筆すべきところは、大規模な広告キャンペーンの仕事でも、彼の作風になじんでいる人が観ると、彼の手によるものだ、ということがはっきり分かることだ。

「ジェフ・マクフェトリッジは、最小限の表現にもかかわらず最大のコミュニケーション効果をあげるデザイナーとして、グラフィック・デザイン界で、非常によく知られた存在だ。造形と対話しながらモチーフを進化させる。それは、人工物と自然の関係性であったり、二次元と三次元の空間の間で、視覚的な難問をときながら内面で遊んでいる。」
- シアトル美術館キュレーター、現代美術担当 : マイケル・ダーリング氏談

「ジェフは、新たな世代のデザイナーを代表する存在。「イメージとプロダクト」、「デザインとアート」、「画像と映像」など、古くさい垣根を軽々と飛び越えることを常に意識している。」
- スミソニアン、クーパーヒューイット・デザイン・ミュージアム ディレクター : ポール・ワーウィック氏

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